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・今日のテーマ
マルチ商法の人々に食事をおごらせるとどうなるのか?

今回のテーマは、女暗殺者の私が経験を踏まえてエッセイで話した方がいいかな?
「ビジネスに興味ありますか?」から始まった罠の香り

私の元に、珍しく「明るい系の女」が近づいてきた。
どこかの駅前で立ち話をしていたら、「将来に不安はないですか?」「今のままで大丈夫ですか?」なんて台詞を、控えめなトーンで投げかけられた。
……おもしろい。
その口調、銃を突きつけられても崩れない外交官より堂々としている。
聞けば、健康と美容と夢を叶える“ビジネス”の話らしい。
勘のいい読者ならわかるだろう。アムウェイ、あるいは類似のマルチ商法だ。
私は彼女についていくことにした。
武器は不要。身一つでよかった。
喫茶店の静かな戦場、タダ飯2000円の行方

連れてこられた喫茶店は、コーヒー一杯800円の中途半端に洒落た店だった。
女は三人。リーダー格とその腰巾着、そして「つい最近始めたばかり」というフリの最下層構成員。
話は長かった。サプリメント、浄水器、夢、仲間、自由。
私は全てに頷いた。沈黙が武器になる場面もある。
そして、彼女たちの“成功談”をたっぷり聞きながら、私はしっかりとケーキセットとサンドイッチを平らげた。会計、合計2000円。財布は出さなかった。
「ごちそうさま」と言って席を立った。

そのとき、見た。
彼女たちの表情が変わる瞬間を。
「誰が払うか」で揺れる経済ピラミッド
「え、ちょっと……誰が、払うの?」
私は耳だけ後ろに向けながら、足取りは軽やかに店を出た。
3人の会話が、鮮明に聞こえてくる。
「◯◯ちゃんが呼んだんだから払ってよ」
「いや、最初に話しかけたのはそっちでしょ」
「私、今月マジでキツいんだけど……」
……たかが2000円で。
人ひとり勧誘して、その夢の“入り口”でつまずくとは。
だが、私は知っている。
マルチに生きる人間の懐事情は、弾倉の空撃ちに似ている。
音は鳴るが、何も出ない。残っているのは焦りと乾いた音だけ。
闇の任務と、1ドルの価値
私はこれまで、アフリカの傭兵に2ドル渡して情報を買ったことがある。
フィリピンの港で、コーラ1本を半日分の報酬として渡したこともある。
だが、あのときのマルチ女たちほど、2000円に執着する顔を私は見たことがなかった。
私が闇に身を置く理由は、命の価値が明確だからだ。
誰を守り、誰を殺すか。その報酬の意味があるから。
でも、彼女たちは違う。
夢だの自由だの言いながら、2000円で友情を揉み潰す。
……これが、マルチ商法という名の砂上の城の正体。
夢は語るものじゃない、支払うものだ
私の世界では、夢を語る前に弾丸を数える。
どれだけの命を、どれだけの代価で処理するか。
逃げ道はない。支払いで揉めるような業界ではない。支払いは必ず現金で、一括だ。
マルチの世界は違うらしい。
“上”にいくためには、夢を語れという。だが、その夢の前にある喫茶店の伝票一枚を、誰も引き受けられない。
私は払わなかった。
それは、彼女たちが私に散々語った“夢”の価値を測るためのテストだった。
結果は、ゼロ。
夢より重かったのは、たった2000円の現実だった。
まずはしっかり現実を生きてから
戦場にも、商談にも、ルールがある。
だが、最も残酷な真実は「お金の流れ」が語る。
2000円でわかることは多い。
夢の重さ、組織の信頼、そして人の浅さ。
それを確かめた私は、今日も引き金に指をかけて、自分の仕事を、己の現実を一生懸命に生きている。

――それにしても、喫茶店の伝票は、人間関係に照準を合わせて探るときに、ちょうどいいサイズだ。
※当ブログ【歴史ファンの玄関:れふかん】のエッセイに出てくる女暗殺者は架空の人物です。女暗殺者のことは、現代社会のテーマ史を扱う際に、テーマをわかりやすく解説するための補助役とお考えください。
